Tokyoink

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西村

まずは「なぜフィルムに通気性が出るのか?」というところなのですが、一言で言うと「それは穴が空いているから」。見た目にはわかりませんが、空気は通すけれど水は通さない非常に微細な穴が空いているんです。ただフィルムにこうした穴を空けること自体は二軸延伸(*2)ですでに実現できていることです。私たちはそうした既存製品とはまったく異なる「新しい設計思想」のもと、一軸延伸(*3)によって通気性フィルムに高いウィルスバリア性を持たせることに成功し、2017年に量産化を実現しました。

西村

そうではなく、「フィラー(*4)を使わない」というところにあります。フィルムに空いている微細な穴が連なって表裏貫通した状態を「貫通孔」と言うのですが、一般的な通気性フィルムは主にフィラーが使用されています。フィラーを使わずにこの貫通孔を空けることが重要でした。

石﨑

この開発は「焼却残渣を減らしたい」というところがそもそものスタートでした。使用済み防護服を焼却する時、樹脂は有機物なので燃え切るのですがフィラーは無機物なので燃えずに灰として残ってしまいます。そうすると焼却炉の寿命が短くなりますし、除染処理作業などで使われた防護服の場合だと汚染物質が焼却残渣に含まれてしまう可能性もあります。それに対して何か手が無いか。フィラーを使わない通気性フィルムができないか。この点が「新しい設計思想」ということです。

西村

こうしたニーズはもっと以前からあったのですが、2011年の原発事故から防護服の処理問題がクローズアップされるようになり、そこにコロナ禍がやってきて「高いレベルでウィルスバリア性がほしい」とニーズが積み重なっていったわけです。

西村

既存のフィラーを使った二軸延伸では、延伸の際にフィラーが核となって周りの縦横に空隙ができて、それが貫通孔になっています。私たちの通気性フィルムの場合は一軸延伸、つまり一方向にだけに引っ張るので穴は細長い「しずく」のような形になります。更にフィラーのサイズに制約を受けないことから、穴の横幅を加工条件の最適化で狭くできます。二軸延伸でできる穴とは形状が異なり穴の面積が近似で通気性が同等でもウイルスが通り抜けづらい形をしています。

芦川

2014年にスタートして量産化に漕ぎつけたのが2017年ですから3年。材料を生産する工場とフィルム成形する工場は別なので、こっちで作った材料をあっちで成形して、その結果を受けてまたこっちで調整して、という試行錯誤を繰り返しながら配合設計を確立していきました。

西村

通気性フィルムというのは、通気性がよければバリア性が落ちるし、バリア性を追いかけると通気性が落ちる。相反する性質なんです。出来上がった材料をそのまま加工すればいいわけではなくて、むしろここからが大変。同じ穴の面積でも幅が狭くなると通気性を維持したままウィルスバリア性を上げられるわけですが、フィラーを使えば簡単にできるところをフィラーを使わずにそれ以上の性質を出したいわけです。3年かかってそのための加工を追い求めてようやく成功しました。

芦川

そうですね、ふたつの現場がコラボレーションして開発を進めるというのは東京インキでもあまり前例がないと思います。そういう意味でも新しい挑戦でした。

石﨑

もともと東京インキにはマスターバッチや添加剤といったフィルムメーカー向け商材の材料技術があったわけですが、フィルム成形までのノウハウを自社で持って市場参入していこうという構想が立ち上がり、2008年に他社から譲受された一軸延伸(MO)フィルム事業をグループ傘下の工場が引き継いでこのような開発にトライすることになりました。

西村

材料は東京インキにすでにある。じゃあその材料を使って一軸延伸の加工をすれば新しいものができるのではないか?それが根底にある思想です。東京インキが培ってきた材料技術(設計・材料)を東京インキには無かったフィルム成形技術と組み合わせたことでシナジー効果が生まれたと考えています。

石﨑

防護服や感染防止衣(ガウン)といった用途がメインですが、今後は更に販売先を広げていきたい。カラーバリエーションが顧客のニーズに繋がるか見極めることも検討したい。

石﨑

そうです。医療用ということで最初に水色を作ったのですが白のニーズも高いので次に作りました。着色によっても加工性がまた変わってくるので1色増やすのもなかなか大変なんですけどね。この白もねぇ、実は結構……。

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